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♦2020/11/03

着物のある情景 ~霜月・11月~

男の帯にも、こだわり

 日本の名随筆というシリーズ(作品社)のなかに「着物」というテーマで編集 された本があります。
この本のなかには、宇野千代や有吉佐和子など名だたる名文家の随筆が載せら れています。テーマが着物ということで、女性による作品が多いのですが、いぶ し銀のような光りを放つ男性作家の文章もあります。
そのなかで、詩人で小説家でもあった木山捷平の「角帯兵児帯」という随筆 は、書かれた年月日は定かでないのですが(恐らく昭和二十年代)とても面白い ものです。ちなみに、角帯とは男帯の一つで博多織などの帯地を二つ折にして仕 立てたキリッとした風情のあるもの。兵児(へこ)帯は男性や子供がするしごき 帯で、ふわりとした感触のものです。
さて、その内容をかいつまんで説明しますと…。筆者である木山は、「なんと なく封建的な感じがする」という理由から、三十代まで角帯を嫌い使いませんで した。が、終戦後の衣装不足のころ、ボロボロになった愛用のへこ帯の代わりと して、妻から差し出されたのが角帯。最初はダダをこねるのですが通らず、仕方 なく角帯をすることになります。
しかし、実際に使い始めると角帯は意外にいい。腹がひきしまると心もひきし まり、また冬は暖かいということに気付きます。
そんな木山の角帯も結び方はユニークだったようで、家にいるときは、結び目 をおへその下あたりにしていました。その理由はといえば、執筆の合間にしょっ ちゅう横になる癖があるから。つまり、結び目を後ろにしてそのまま眠ってしま うと、あとで背骨が痛んでしまう…。なんともワガママな着物愛好家ですが、着 物をしめくくる帯には、誰しも“こだわり”があるというお話です。
今では仕事着や日常着として着物を常用する男性はめっきり減りました。晩秋 の肌寒さを覚えたら、和服でくつろいで熱澗をチビリチビリ。そんな楽しみ方も 素敵なものですね。

【参考文献】
『日本の名随筆 着物』鶴見和子編(作品社)

(エッセイ・羽渕千恵/イラストレーション・谷口土史子)

 

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